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新聞メディアの主張がこの程度の様子見レベルでは、非常に物足りない。憲法に違反する選挙結果で構成された政府による国会が憲法を改正するのか?改正を要する憲法であるなら、違憲政府が牛耳る国会であっても、是正されるべきは憲法のだと言うのか?

【朝日新聞l社説】一票の格差―異様な政治が裁かれた
 あらためて、この国の政治の異様をおもう。
 違憲の選挙で議席をえた国会議員が法律や予算をつくり、違憲の議会が選んだ内閣とともに国のあゆむ方向を決める。これを異様といわず何といおう。
 一票の格差をめぐる高裁判決がそろった。最高裁から「いまの議員定数配分は法の下の平等に反する状態にある」と指摘されながら、1年9カ月後に同じ配分のまま行われた昨年の衆院選に関する一連の裁判だ。
 この期間では国会が対応できなかったのもやむを得ないとして、なお「違憲状態」にとどまるとした判決が2件あった。いかにも手ぬるい。立法府の明らかなサボタージュを、司法が追認してどうするのか。
 残る14件は、是正のための時間はあったと述べ、一歩進んで「違憲」の結論を導いた。うち2件は、論理の積み上げがやや乱暴なのは気になるが、はじめて「違憲・無効」に踏みこみ、選挙のやり直しを求めた。
 決着は今秋にも予想される最高裁判決を待つことになる。
 憲法がかかげる「正当に選挙された国会における代表者」とは何か。国民主権とは、民主主義とは、法の支配とは。
 裁判をとおして根源的な問いが突きつけられているというのに、政治の側の認識の浅さ、危機感の薄さは驚くばかりだ。
 あいもかわらず、どんな仕組みにすれば自党に有利か、政局の主導権をにぎれるかといった観点からの発言がなされ、「裁判所はやりすぎだ」と見当違いの批判をくり出す。
 「国権の最高機関」であるためには、民意をただしく反映した選挙が実施されなければならない。この当たり前のことが、なぜわからないのか。
 0増5減に基づく新区割り法を、まず成立させる。そのうえで、これは緊急避難策でしかないとの認識にたち、最高裁が違憲の源とした「1人別枠制」を完全に排する抜本改正をする。
 それが政治の当然の務めなのに、自分らに都合のいい制度を続けるために、憲法を変えてしまおうという動きがある。
 自民党の憲法改正草案には、「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定める」とある。
 考慮する要素を増やすことで国会の裁量の幅をひろげ、司法によるチェックが働きにくいようにしよう――。そんな思惑がすけて見える条文だ。
 政治は、選挙制度は、だれのためにあるか。もちろん国民・有権者のためにある。この原点をとり違えてはならない。

【読売新聞|社説】衆院選違憲判決 国会は司法の警告に即応せよ
◆「無効」判断は無責任ではないか◆
 立法府が、司法からこれほどまで怠慢を指摘されたのは、かつてなかったことだ。
 昨年12月の衆院選を巡り、全国の高裁・支部で審理された16件の「1票の格差」訴訟のうち、15件で判決が言い渡された。
 13件は「違憲」と断じた。残る2件も「違憲状態」と指摘し、合憲判断は一つもなかった。
 約50人もの高裁判事が審理した結果である。国会は判決を重く受け止め、早期に具体的な是正措置を講じなければならない。
◆進まない格差の是正◆
 最大2・43倍だった1票の格差が、法の下での平等を保障した憲法に違反するか。違反であれば、国会が格差を放置した期間は許容できる範囲内か。いずれの訴訟もこの2点が主な争点だ。
 「違憲」判決は、格差が憲法違反である上、格差是正の合理的期間も過ぎたと判断した。「違憲状態」判決は、憲法違反だが、格差の放置は許される期間内だとの見解である。
 最大格差が2・30倍だった2009年の衆院選について、最高裁は11年3月、「違憲状態」とする判決を出した。昨年末の衆院選時には、それよりも格差が拡大していた。
 高裁の一連の厳しい判断は、予想できたと言えよう。
 ただ、1票の格差は、何倍までならば合憲なのか、各高裁の判決からは必ずしも判然としない。
 さらに、問題なのは、広島高裁と広島高裁岡山支部が、選挙の無効まで宣告したことである。
 裁判所はこれまで「事情判決」の法理を適用し、選挙そのものは有効としてきた。無効とした場合の混乱を考慮してのことだ。
 これに対し、広島高裁は「最高裁の違憲審査権が軽視されている」として、事情判決を適用しなかった。「最高裁判決から1年半が経過した昨年9月」を、格差是正の期限とする見解も示した。
 だが、この線引きの具体的根拠は示されていない。
 ◆「将来効」判決は疑問◆
 無効の効力は、今年11月26日を経過して発生するとも判示した。衆院の「選挙区画定審議会」が、昨年11月26日から改定作業を始めたことを重視したのだという。
 一定期間を経た後に効力が生じるという「将来効」の考え方だが、1年という区切りの必然性は明確でない。立法府の裁量権に司法が踏み込んだとも言える。
 岡山支部は、選挙を「即時無効」と判断した。「政治的混乱より投票価値の平等」を重視したというが、あまりに乱暴過ぎる。
 現行の公職選挙法には、選挙無効が確定した場合の詳細なやり直し規定がない。例えば、失職した議員の選挙区のみ再選挙をするのか、解散・総選挙になるのか、法的手続きは整理されていない。
 無効判決が確定すれば、政治は混乱するばかりだ。
 すべての訴訟は上告される見通しだ。最高裁には現実的な判断を示してもらいたい。
 ◆与野党合意できぬなら◆
 一方、政府・与党は、1票の格差を2倍未満に収める「0増5減」の区割りを決める公選法改正案を早期に成立させた上で抜本改革に取り組まねばならない。
 ただ、0増5減は、最高裁が1票の格差を生む主因として廃止を求めた「1人別枠方式」による定数配分を基礎としている。
 岡山支部判決が指摘するように「投票価値の格差是正への立法措置とは言い難い」だろう。
 抜本改革となると、与野党それぞれの思惑が絡んで、進展の見通しは全く立っていない。
 自民党がまとめた案は、比例選の定数を30減の150議席とし、そのうち60は得票数が2位以下の政党に配分する優遇枠とした。優遇枠については、「1票の価値の平等」という観点から憲法違反の恐れが指摘されている。
 司法が「違憲」と判断した制度を見直すのに、またもや違憲の恐れがある制度をもって代えてよいはずがあるまい。
 衆院選と同様に参院選も「違憲状態」と判断されている。国会は参院選の1票の格差を是正するために昨年11月、公選法を改正し、選挙区定数を「4増4減」したが、応急的な措置に過ぎない。
 選挙制度は、ただ民意を反映するだけのものではなく、政治が物事を円滑に決めるための基盤でもある。国会は衆院、参院の役割分担を検討したうえで、抜本的な制度改革を進めるべきだ。
 各党の党利党略によって、選挙制度改革が困難というのなら、有識者による選挙制度審議会を設けてでも改革を図るしかない。
(2013年3月27日01時12分 読売新聞)

【毎日新聞|社説】衆院選無効判決 警告を超えた重い判断
 わが国の議会政治史上、異例の事態といっても過言ではあるまい。
 「違憲状態」だった小選挙区の1票の格差是正がないまま実施された昨年12月の衆院選広島1、2区について、広島高裁が「違憲・選挙無効」の判決を言い渡したのだ。
 選挙無効の判断は、過去の国政選挙の1票の格差をめぐる裁判で高裁・最高裁を通じて初めてだ。
 憲法が要請する投票価値の平等に基づいて実施されなかった選挙で選ばれた衆院議員に正当性はない。判決はそう言っているのに等しい。
 裁判所はこれまで「違憲」の判断をした場合でも、混乱を回避するため「事情判決の法理」を適用し、選挙を有効としてきた。
 広島高裁が過去の例にならわなかったのはなぜか。最高裁は11年3月の大法廷判決で「選挙区間の人口の最大格差は2倍未満が基本」とした法律の区割り基準について合理的との見解を示し、1票の格差が最大2・30倍だった09年選挙は「違憲状態」との結論を導いた。だが、昨年12月の選挙時点で格差は2・43倍に拡大。格差2倍以上の選挙区も09年選挙の45選挙区から昨年は72選挙区に激増していた。
 高裁判決は、こうした状態を招いた国会の対応はもはや許されないと判断したのだ。最高裁判決から1年半が経過した昨年9月が是正のタイムリミットだったと結論づけ、「民主的政治過程のゆがみの程度は重大で、最高裁の違憲立法審査権も軽視されている」と強く警告した。国会は率直に批判を受け止めるべきだ。
 最高裁で無効判決が確定すれば、訴訟対象の衆院議員は失職する。失職議員が関与して成立した法律は有効なのか。そんな疑問も湧く。
 さらに根本的な問いかけもある。他の議員も「違憲状態」で選出された点は同じだ。ならば再投票は失職議員の欠員補充だけで足りるのか。解散して全議員を選び直すのが筋だとの意見も出てこよう。
 広島高裁判決は、混乱を避けるため、無効の効果は今年11月26日を経過して発生するとした。最高裁が85年に「違憲」判断をした際、当時の寺田治郎裁判長らが補足意見で示した見解を援用したもので、定数是正に一定の猶予期間を与えたものだ。
 「0増5減」を前提に第三者機関の審議会が近く、区割り案を安倍晋三首相に勧告する。最低限、その是正を今国会で済まさねばならない。
 ただし、「0増5減」の定数是正は不十分だと札幌高裁が指摘したように、小手先改正への批判もある。投票価値の平等を実現するような定数是正と削減、さらには衆参両院一体の選挙制度改革に本気で取り組む時がきた。

【産経新聞|社説】衆院選無効判決 国会の「怠慢」への断罪だ
 司法がついに衆院選の「無効」に踏み込んだ。動かぬ国会に、司法の怒りが一線を越えさせたといえる。国会は速やかに「違憲」の状態を解消しなくてはならない。
 最大2・43倍の「一票の格差」が生じた昨年12月の衆院選を広島高裁は「違憲」と判断し、広島1、2区の選挙を無効とした。衆参両院を通じて選挙無効の判決は戦後初めてだ。
 判決は、昨年の衆院選で一票の格差が是正されなかったことについて、「最高裁の違憲審査権が軽視されている。もはや憲法上許されるべきではない」と、厳しく国会の対応を批判した。
 平成21年の衆院選について最高裁大法廷は23年3月、各都道府県にあらかじめ1議席を配分する「1人別枠方式」による最大格差2・30倍の区割りを「違憲状態」と判断していた。
 23年の判決後も国会では、衆院の定数是正と定数削減、選挙制度改革の議論が各党の利害も絡んで錯綜(さくそう)した。昨年11月の解散直前に、格差を2倍未満とする「0増5減」の緊急是正措置がとられたが、区割り作業は間に合わぬまま12月の衆院選が実施された。
 昨年の衆院選をめぐる一連の訴訟で小選挙区の判決は8件目だ。これまで東京高裁など5件の違憲判断が出ていたが、選挙無効の請求は退けられていた。選挙無効とすれば「議員がいない状態で選挙区割りを是正することになる」という理由からだった。国民の主権行使という現実も重かった。
 国会の側に「違憲状態」や「違憲」判決が出ても、選挙無効にはなるまいという、甘えや司法軽視はなかったか。
 広島高裁判決は、無効の効力は「今年11月26日の経過後に発生する」と猶予期間を与えた。選管側が上告すれば直ちに無効とはならず、判断は最高裁大法廷に託される。だが、戦後初の無効判決という異例の事態を、国会は重く受け止めるべきだ。
 今月28日に衆院選挙区画定審議会から安倍晋三首相に新しい区割り案が勧告され、それに基づく公職選挙法改正を経て、ようやく新区割りが適用される。
 与野党の協議では自民党が比例代表に中小政党向けの優先枠を設ける案を出しているが、新たに投票価値の平等を崩す問題があるとして強い異論がある。これ以上の遅滞は、醜態というべきだ。

【日経新聞|社説】無効判決まで出た1票の格差是正を急げ
 「1票の格差」の是正に動かない国会に対して、司法がこれまでになく厳しい指弾を繰り返し、強く改革を求める結果となった。
 昨年12月の衆院選をめぐり、全国の高裁・支部で審理されていた計16件の1票の格差訴訟の判決が出そろった。14件が違憲判決で、うち広島高裁と同高裁岡山支部は選挙の無効も言い渡した。同高裁は「最高裁の違憲審査権が軽視されている」と指摘した。
 政治的な混乱を避けるため、広島高裁は猶予期間を経た後に効力が発生する判決を出したが、岡山支部は混乱より投票価値の平等を重視し、即時無効とした。
 岡山の判決には再選挙のあり方をどう考えるかなど丁寧な説明がほしいところだ。しかし、違憲と判断しても無効とはしないこれまでの「事情判決」から踏み込んだ判決が2件出たことは、司法からの最後通告と受け止めるべきだ。
 国会はまさに崖っぷちに立たされた。16件すべてが上告され、最終的には最高裁が統一判断を示す見通しだが、まず小選挙区の「0増5減」をただちに実現させ、違憲の状態を解消すべきである。
 そのうえで、抜本改革を早急に進める必要がある。ここでまた小手先の数合わせに終始し、選挙のたびに最高裁の判断を待つような対応が続けば、立法府としての信頼を完全に失ってしまう。
 最高裁は1票の格差が最大2.30倍あった2009年の衆院選を「違憲状態」と判断した。昨年11月に小選挙区で「0増5減」する法律が成立したが、新たな区割りが間に合わず、翌月の衆院選では格差が2.43倍にまで拡大した。
 格差是正をめぐる与野党協議が難航するのは、多くの課題を一緒に論議するからだ。各党の利害調整が最も難しい比例代表の定数削減の幅などで合意が得られない限り、他のすべての選挙制度改革が実現しないという現在の進め方では、今国会も成果なしで終わる公算が大きい。
 1票の格差の是正には都道府県に配分する小選挙区の数や区割りの見直しが不可避であり、これを先行させるべきである。
 最高裁の判決は早ければ夏にも出る見通しだ。仮に選挙無効とするのであれば、その後の混乱をどう抑えるのか。無効にしないのであれば、高裁の2件の無効判決にどう反論するのか。どちらにしても、違憲審査権のあり方にかかわる、極めて重要な判断となる。

【高知新聞|社説】1票の格差訴訟】放置できない「合憲ゼロ」
2013年03月28日08時18分
 昨年12月の衆院選をめぐる、一連の「1票の格差」訴訟が、きのうの仙台高裁秋田支部判決で終わった。
 全国の高裁・支部で審理された16件の訴訟判決は、小選挙区の区割りについて違憲14、違憲状態2と判断した。合憲は一つもない。選挙無効が2件あったことと併せ、現行制度に対する司法の不信は極限に近い。
 衆院選挙区画定審議会はきょう、格差是正に向け「0増5減」の区割り改定案を安倍首相に勧告する。司法の警告を重く受け止め、速やかな格差是正を図る責任は政治にある。
 一連の高裁判決のベースとなったのは2011年3月の最高裁判決だ。
 最大2・30倍あった09年衆院選の1票の格差を、初めて「違憲状態」と断じ、格差の元となる「1人別枠方式」の早期廃止を求めた。この半面、選挙自体は有効としている。
 12年衆院選は、最高裁判決から1年9カ月が経過し、1票の格差も最大2・43倍に拡大していた。この期間と格差の状況を、憲法の定める「法の下の平等」に照らし、どう判断するかが高裁判決のポイントだった。
 6日の東京高裁から始まった判決はいずれも政治の怠慢、司法軽視を指弾した。衆院解散前に0増5減法案が成立していても、肝心の区割りは間に合わなかった。格差の放置と拡大を重く見たのである。
 1票の格差の合憲、違憲の目安は2倍との見方もあったが、高知3区との格差が1・41倍の岡山2区、1・54倍の広島1区をめぐる訴訟でも、選挙無効の判決が出たのは注目される。
 この背景にあるのは現行の区割り全体を違憲と判断し、それを小選挙区の判断にも適用する考え方だ。選挙制度を根幹から見直すことを求めるメッセージでもあろう。
 司法の場では最高裁大法廷の統一判断に関心が移るが、政治の場では画定審の勧告に基づいた区割り改定が次の課題となる。
 自民、公明両党は0増5減の区割り改定を実施する法案を、抜本改革に優先して今国会で成立させる方針だ。しかし0増5減は投票価値の格差是正とは言えない、との高裁判決もあって野党側は抜本改革を求めている。
 昨年の通常国会では、改革の方法をめぐり与野党が対立、結局0増5減法案の成立も遅れた。与野の勢力図は変わっても、同じ失敗は許されない。

【東京新聞|社説】一票の格差訴訟 最高裁は果断であれ
 昨年の衆院選は「無効」とした二つの判決は衝撃だった。一票の格差訴訟で“違憲ラッシュ”が続く異常事態だ。最高裁は果断な判断を早く出すべきだ。
 警告が発せられていたのに、それでもルールを無視したら、アウトになる。そんな常識が国会には通用しないらしい。
 あたかも警告に従順であるように見せかけ、わずかにルールをいじって、セーフだと言っても、審判には通用しない。昨年十二月に実施された衆院選と、その後の「一票の格差」訴訟を眺めると、そんな印象を持つ。
◆吹き荒れた「違憲」の嵐
 全国十四の高裁・高裁支部で二つの弁護士グループが起こした裁判は計十六件。広島と岡山で「違憲・無効」判決が出て、東京や札幌、金沢など十二件が「違憲」だった。「違憲状態」としたのは、名古屋と福岡だけだ。列島の中を「衆院選は憲法違反」という春の嵐が吹き荒れたかのようだ。
 違憲論理は明瞭だ。(1)投票価値が不平等かどうか(2)是正するために合理的な期間を過ぎているかどうか(3)選挙無効とするかどうか-。この三点で判断された。もともと有権者一人が持つ一票の価値に、最大二・四三倍もの格差があった。ある人は「一票」なのに、ある人は「〇・四一票」しかない。不平等であるのは明白だ。
 その“病根”を二〇一一年に最高裁は「一人別枠方式」にあると明示した。あらかじめ四十七都道府県に一議席ずつ配分する方式の廃止を求めたのだ。これが警告だ。
 だが、国会は昨年の解散間際に、法律の規定を削除したものの、事実上、同方式を温存したまま、「〇増五減」を決めた。ルールをわずかにいじった目くらましの手にすぎない。札幌高裁などは「最高裁判決の指摘に沿った改正とは質的に異なる」と断じた。審判の目からは逃れられない。
◆事情判決に安住するな
 しかも、最高裁判決から一年八カ月もの時間があった。同時に従来の区割りで選挙をした。「違憲」は自明の結論といえよう。
 広島と岡山では、違憲でも選挙は有効とする、いわゆる「事情判決の法理」が通用しなかった。選挙無効とした場合、大きな政治的混乱が予想され、それを回避するため、一九七六年に最高裁が“発明”した法理論である。
 ただし、無理があるとも指摘されていた。元最高裁判事の藤田宙靖氏は「最高裁回想録」(有斐閣)で記している。
 <「事情判決の法理」とは、ただ、“公共の福祉に著しい影響を及ぼす場合には、憲法違反の国家行為も無効ではない”という余りにも乱暴な理屈を無造作に展開するものに過(す)ぎないことになるのであって、私には到底賛同することができない>
 広島が八カ月の猶予期間を付けた“未来の無効”であったのに対し、岡山は猶予を付けなかった。「投票価値の平等に反する状態を容認する弊害に比べて、政治的混乱が大きいとはいえない」と踏み込んだ判断をしたのだ。
 もちろん、最高裁で「違憲」が確定するだけでも、現行の小選挙区が中心の制度が実施されてから、初となり意味は極めて重い。
 確定判決の趣旨に従って、国会に法改正の義務が発生するからである。「一人別枠」を実質廃止し、小選挙区を人口比例配分することになろう。金沢判決などが「区割りは、実務上可能な限り人口に比例してされねばならず、許容される格差はさほど大きくない」と明言している。
 だが、実際に国会は機敏に動くだろうか。無効を宣言しない限り、政治は鈍感であり続けはしないか。自民党の制度改革案でも、比例選の定数を三十減にし、中小政党への配慮策など盛り込んだ内容にすぎない。比例選こそ、平等選挙の世界であり、その定数を減らすことなど、「一票の格差」問題とは無関係である。
 議員自身が利害当事者だから、抜本改革が期待できないのだ。身を切るなら、莫大(ばくだい)な政党交付金を大幅に削った方が国民にわかりやすい。司法は政治になめられている。こんな国会を許すなら、最高裁は憲法の番人たりえない。
 「四増四減」の弥縫(びほう)策で行われる夏の参院選後には、全都道府県で、選挙無効訴訟が起きると聞く。またも、選挙無効や“違憲ラッシュ”の嵐が予想されよう。
◆腹くくる覚悟で臨め
 四五年三月、戦時下でありながら、当時の大審院は、東条英機政権下の翼賛選挙に「衆議院議員ノ選挙ハ之ヲ無効トス」と宣言した。再選挙を行わせるほど、腹をくくったのだ。
 憲法が要請するのは、実際上、可能な限りの一票の平等であることは、疑いがない。試されるのは最高裁の覚悟である。

【中国新聞|社説】「1票の格差」判決 国会の怠慢が問われた
 業を煮やした末の判決だろう。一昨年の参院選で最大5倍になった「1票の格差」を最高裁が「違憲状態」とした。
 3年前の衆院選についても昨年3月に違憲状態との判決を下した。衆参両院が同時に憲法上の疑義を持たれる異常事態だ。
 参院選が違憲状態との判決は、1992年の選挙以来、2度目。その間、国会は選挙区の定数見直しでわずかに格差の是正を図った。最高裁も「合憲」と判断したが、格差の抜本的な解消をたびたび求めてきた。
 今回の判決では、立法府たる国会の怠慢が問われたといえる。もはや場当たり的な対応に終始するのは許されない。今度こそ原点に立ち返った改革に取り組まなければならない。
 憲法は参院議員の任期を6年とし、3年ごとに半数を改選すると定める。解散のある衆院に対し、参院の継続性を重視しているためだ。
 都道府県単位の各選挙区には最低2人以上の偶数の議員数が必要になる。そのため、一昨年の参院選では議員1人当たりの有権者数が最少の鳥取と最多の神奈川で5倍の格差が出た。
 最高裁は今回の判決で初めて具体的な問題点に触れ、都道府県単位の選挙区の見直しが必要と指摘した。格差是正のための提言としては理解できよう。
 とはいえ、現在の選挙区は地方の声を国政に反映させる仕組みでもある。少数意見ながら最高裁の判事の一人も同様の指摘をしている。
 島根、鳥取両県など隣接する人口が少ない2県を一つの選挙区にする案や、中国地方といったブロックごとの選挙区案が取り沙汰されている。首都圏への一極集中という現状を放置したまま、単に形だけの格差解消であってはならないだろう。
 「1票の格差」の問題では有権者数だけではなく、投票率も考慮すべきだとの意見がある。大都市部に比べ地方はおしなべて高い。参院だけではなく、衆院も併せた選挙制度改革の中で、地方の声をどうくみ取るかを考えなければなるまい。
 最高裁は過去の参院選では格差が5倍前後ならば合憲と判断してきた。参院に対しては比較的寛容だったのが、厳しい姿勢に転じたのはどうしてだろう。
 ねじれ国会の下で参院が変質したためではないか。そもそも参院は「良識の府」として衆院の行き過ぎをチェックする役割を期待されてきた。それが今や重要法案に徹底的に反対する「強すぎる参院」となり、「政局の府」ともやゆされている。
 一部の政党からは参院不要論まで出ている。参院が今のままでよいのか、あらためて国民的議論が必要だ。
 選挙制度の抜本改革は、衆参両院とも次回の選挙には間に合いそうもない。どうするつもりなのか。
 弥縫(びほう)策の感は拭えないが、まず参院は民主、自民両党がまとめた「4増4減」を臨時国会で実現すべきだ。衆院も早急に小選挙区の「0増5減」を成立させなければならない。
 抜本改革については、議員自身に任せるのは無理かもしれない。当事者能力がないのなら、国会は第三者による委員会を発足させ、改革案の策定を依頼するのが現実的だろう。次の次の選挙を見据え、今から議論を始めるべきだ。