政府は、消費税率を引き上げた際に「消費税還元セール」などを禁止する特別措置法案を閣議決定した。
麻生財務相は「中小零細企業等々に対して、いろいろな圧力があって、消費税を(価格に)転嫁できないというような話は、本人たちが努力してもなかなかできないというのは、避けなければならない」と述べた。
22日、閣議決定された特別措置法案は、2014年4月に消費税率を8%に引き上げた際、中小企業に対し、増税分を申し合わせて一斉に価格に上乗せする「転嫁カルテル」や、価格の表示方法を業界で一律に定める「表示カルテル」を認めている。
また、2015年10月には、消費税率が10%に引き上げられるため、値札の貼り替えなどの負担を少なくするため、条件付きで消費税抜きの価格表示を認めるという。
一方、増税分を値引きするなどの「消費税還元セール」は、消費税の趣旨に反するとして禁止した。
政府は、2017年までの時限立法として今国会に提出する。
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 政府・自民党は、ここにきて来年4月に消費税を8%に引き上げる増税実施準備をどんどん進めている。
 自民党は消費税引き上げの際、スーパーや量販店など小売業者が増税分を値引きする「消費税還元セール」を禁止し、値上げカルテルを認める特別措置法案を国会に提出することを決定した。特措法ではさらに中小企業の業界団体が増税分の価格上乗せ方法を共同で決める「転嫁カルテル」を認めて、独占禁止法の適用除外とする方針だ。
 還元セールの禁止では、企業や小売店が経営努力で値引きすることもできなくなる。いわば「みんなで値上げしよう」法案であり、消費者のために値引きセールをした業者を、「税を取る役所」の国税庁(財務省)と「消費者を守る役所」の消費者庁が取り締まる。還元セールを行なった企業は名前が公表され、調査が入る。値上げに協力しない企業は“犯罪者”扱いである。
 一方で財務省は増税後の住宅需要冷え込み対策として、今年9月末までに注文住宅の購入契約を結べば引き渡しが来年4月以降でも税率を5%のままにする経過措置を打ち出した。税率引き上げが正式に決まってもいないのに「経過措置」とはふざけた話だが、これも増税の「来年4月実施」を既成事実化する露骨な動きだ。
 本来、アベノミクスは、景気回復で経済を成長させ、その結果、サラリーマンの給料が増えて物価も上がるというデフレ脱却の好循環を目指す政策だったはずだ。しかし、いまやっていることは、消費増税の条件を達成するために、強制的な「官製インフレ」をやっているようにしか見えない。
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社説:消費税転嫁法案 弱者いじめを見逃すな

 消費増税まで1年となり、政府は、税金の円滑な価格転嫁を促すための特別措置法案を国会に提出した。中小事業者が大手小売店などから転嫁拒否など不当な扱いを受けたりしないよう対策を盛り込んだものだ。
 まだ1年もある、とのんびりしてはいられない。すでに来年4月に備え、価格の交渉が始まっている。法律が施行される前に、増税分の値引きを納入業者に確約させておこうといった動きも出ているそうだ。弱者を犠牲にした安売り競争が起きることのないよう、環境整備を急がねばならない。
 法案は、力関係で優位に立つ大企業が取引先の中小企業に、納入品への税金上乗せを拒否したり、上乗せを認める代わりに手伝いを強要したりする行為を禁止している。違反した企業は、公正取引委員会が転嫁に応じるよう勧告するとともに、名前を公表する。公表によって企業イメージが損なわれるため、抑止効果も期待されている。
 問題は、いかに不当行為を早期発見できるかだ。弱い立場の企業は、取引先からの報復を恐れて被害の通報をあきらめがちである。納入業者の自発的値引きに見せかけるなど、転嫁拒否の手口も巧妙になっているという。企業が被害を通報しやすくする工夫が必要であると同時に、大手小売業者への監視・調査を徹底して行える体制が求められる。法案では資本金3億円以下を中小企業とみなしているが、被害企業の規模にかかわらず転嫁拒否を見逃さない仕組みにする必要がある。
 一方、特別措置法案は、小売店が「消費税還元セール」や「消費税は当店が負担します」などと表示することを禁じる異例の対策も盛り込んだ。こうした値引き合戦が活発化すれば、余力のない小売業者も対抗せざるを得なくなり、結果として商品納入元の中小企業にしわ寄せが及ぶ恐れがあるからだ。
 とはいえ、表示の表現を制限しても、「還元セール」が「春の大感謝セール」に衣替えするようでは意味がない。かといって、あらゆる値下げを行政が縛ることは望ましくないうえ、現実的でもない。
 形ばかりの規制より重要なのは、消費者や小売業者に対する広報・啓発活動だろう。何のための増税なのかを国民に理解してもらい協力を求める努力が政府にはもっと必要だ。
 小売業界にも、注文しておきたい。顧客重視はありがたいが、利益を度外視した値引きは業界を疲弊させるばかりか、結果的にデフレを長引かせる。賃金や雇用を圧迫し、消費の回復が遅れ、結局自らの首を絞めるだけだろう。自分さえよければ、は長続きしない。
(毎日新聞 2013年03月30日)