食中毒には、「O157」やサルモネラなどの細菌により起こる細菌性食中毒、食品に洗剤などの物質が混入して発生する化学性食中毒、毒きのこや自家調理のふぐなどを食べたときに起こる自然毒性食中毒などがあります。その中で最も発生の多いのがO157に代表される細菌性の食中毒で、全食中毒のうち約90%を占めています

 「O157(オーいちごうなな)」とは、O抗原が157番の大腸菌のことですが、一般に食中毒を起こす病原菌として認知されているO157は、腸管出血性大腸菌O157:H7です。病原性大腸菌にはベロ毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす腸管出血性大腸菌と呼ばれるものがあります。

 腸管出血性大腸菌には、代表的なO157の他にO1、O18、O26、O111、O128、O145など多くの種類があります。ただし同一O抗原の大腸菌の全てがこの病原性をもつことはなく多くの場合は極少数です。ただしO157:H7は比較的多くこの病原性を示します。O157による食中毒は一般の大人も感染しますが、特に、体の抵抗力の弱い乳幼児や高齢者では、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害など)を引き起こしやすいので注意が必要。

 「O-111」は「O-157」と同様、ベロ毒素と呼ばれる強毒性の毒素を生産し、下痢や発熱などの食中毒症状を引き起こす。また、合併症状として脳症、溶血性尿毒症症候群と呼ばれる肝臓疾患なども引き起こす。特に子どもや高齢者は重篤に陥りやすい。

 腸管出血性大腸菌O-111とO-157の違いは、抗原(O抗原)による分類上の区分による。症状などに目だった違いがあるわけではない。腸管出血性大腸菌に共通する特徴として、感染力が非常に強いという点がある。菌の数が、他の食中毒の事例の1万分の1程度(おおよそ100個程度)でも発症するおそれがあるといわれている。

 腸管出血性大腸菌は75度以上の熱で死滅させることができる。そのため、肉などを調理する際には十分に加熱することが推奨される。また、レバ刺しやユッケなどで用いられる生食用食肉の取り扱いについては、1996年に発生したO-157による集団食中毒事件を契機として作成・通知された「生食用食肉の衛生基準」においてガイドラインが示されている。

1 腸管出血性大腸菌感染症とは
 腸管出血性大腸菌は、腹痛・下痢・血便などを主症状とする腸管感染症を起こします。
 典型的な症状として、2~9日(多くは2~5日)の潜伏期間の後、激しい腹痛を伴う頻回の水様便、続いて血便が見られます(血便は出血に近い場合もあります)。発熱は多くの場合37℃台と軽度です。症状は、まったく無症状の方から、重症の方まで様々です。
 発症者の約5%が、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害)などの合併症を起こし、時には死亡することもあります

2 原因と感染経路
 原因はベロ毒素※を産生する「腸管出血性大腸菌」による感染です。
 腸管出血性大腸菌の代表的な血清型にはO157、O26、O111などがあります。「大腸菌」は家畜や人の腸内に存在し、ほとんどは無害ですが、一部に人に下痢などの消化器症状を起こす「下痢原性大腸菌」があり、その中でベロ毒素を産生する菌を『腸管出血性大腸菌』と言います。多くの細菌性食中毒では原因菌を100万個単位で摂取しないと発症しませんが、『腸管出血性大腸菌』は強い感染力を持っており、100個程度で発症する可能性があります。また、子供や高齢者は感染すると重症化しやすいと言われています。
 感染経路は、食品などを原因とする「食中毒」と、「感染症」の2つに大別されます。

 ※ベロ毒素とは、腸管出血性大腸菌が産生する毒素で、VT1とVT2の2種類があります。
腸管出血性大腸菌には、VT1とVT2 の両毒素を産生する菌と、VT1またはVT2のいずれか一方を産生する菌があります。

予防のポイント
外食や調理の際の注意

肉の生食(レバ刺しやユッケなど)は避け、十分に加熱しましょう
肉を焼くときの取り箸やトングなどは専用にして、口に入れないよう注意しましょう
生野菜はよく洗い、ハンバーグなどは中心部まで十分に加熱しましょう(十分に加熱できたかどうかの目安として、ハンバーグの中心から透明の肉汁が出ることを確認します)
調理の時、手指はこまめに洗いましょう。特に、生肉を扱った手指は、他の食材や器具に触る前に、石鹸で十分に洗いましょう
生肉を扱った調理器具は、使用後すぐに洗剤で洗い、熱湯等で消毒してから、他の調理に使いましょう

個人衛生

トイレの後、調理・食事の前に石鹸と流水で十分に手を洗いましょう
動物に接した後は、石鹸と流水で十分に手を洗いましょう
患者の介護をする人は、下痢便に触れないように使い捨て手袋を使い、はずした後も十分に手を洗いましょう
下痢症状のあるときは入浴の順番は最後にし、シャワーを使いましょう
下痢症状のあるときは、プール(特に子供用簡易プール)の使用は控えましょう